2020 南山学園概要

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- 学園と私
真の国際性と 宗教性
第8代南山学園理事長 第4代南山学園長
学園が果たすべき役割はなんだろうか。 世界には様々な宗教が存在する。人々はそれぞれの宗教 を信奉し、 その教えに従う。しかし、 それだけでは十分では ない。自分の宗教の教えにとどまり、 それだけを敬うのでは 独善に陥る危険性がある。視野を広げ、より大きな世界を 理解していくには、他の宗教を知り、互いに認め合い、尊重 しあっていくことを学ばなければならない。このような根源 的な「相互理解」の精神こそ、南山が掲げる「人間の尊厳の ために」Hominis Dignitatiというモットーにふさわしい精
ペ ドロ ・ シモン
今日、教育の重点は何か、との問いに対して、世界的な視 野を与えることとか、国際性を養うこととか答える人も多 いと思う。しかしその前に、教育の基本として教えていかな ければならないのは、 そうした国際的な視野を支える次元、 つまり、自分たちの存在基盤としての国という視点に立って、 その基礎を固めていくことではないか。国際的な関係を支 えているのは一つ一つの国という単位であり、この国とい う単位を看過しては真に国際的な視野は生まれてこないの ではないか。ある国の歴史、 そこに芽生えた文化、 その国の人々 が時の流れのなかで作り上げてきた思想、 そこで生まれた 文学など。こうした様々な要素を教え、自国に固有なものを 理解させ、 その理解の中から自分の国に対する愛情を育む ということ。自分の国の人々が歩んできた道筋を知り、同一 の大地で確かな未来を模索するということ。 ここまで私は、真の国際性の出発点とは、各人が自らの 現実を築いている基盤をしっかり把握することにある、と述 べてきたが、 そうした個としての視点にグローバルな視点 を付与するさらに深い次元があり、 それが宗教性である、と 思う。人は自国に根ざした思想や知識に支えられ、宗教が 有する普遍的価値観に照らされて、より国際的な視野を獲 得することができる、と思う。 日本では古くから、人々の暮らし、習慣、行事など様々な 分野において、神道や仏教が非常に重要な役割を果たして きた。その日本で、カトリックを最高理念として掲げる南山
神である。南山大学の宗教文化研究所はこうした考えに基 づいて、諸宗教間の対話をひとつの大きな柱として創立さ れたものである。諸々の宗教を信奉し、諸々の文化に生き る人々が互いに心を開いて、より深く大きな理解の道を探る。 多様な世界状況の下、認めあい尊重しあうことで、新しい 21世紀の世界を拓くための愛と知恵を現実のものとして いく。私は、南山における学問と国際性の推進に力を注い だ沼澤神父やヒルシュマイヤー神父らの意図を継続させて いきたいと思う。 今、南山大学に総合政策学部と数理情報学部という二つ の新しい学部が誕生しようとしている。こうした学部ではコ ンピューターなどの情報機器を多用して教育が行なわれて いくことだろう。いうまでもなく、情報機器の導入は相互の コミュニケーションを容易にする。身近なところから国際社 会に対しての働きかけが可能となり、またその逆に、世界の 情報の獲得もできる。今後この傾向はますます増大してい くことだろう。こうした状況にあって、教育とは知識のみをイ ンプットするロボットに対するようなものではなく、学生の 一人一人が人間として自己を確立し、健全で深い思想の持 ち主となるよう、 その現場においては今まで以上の努力が 求められるであろう。換言すれば、学生の世界観および人 格や学問の形成にあたって、何よりも「人間の尊厳」を踏ま えた教育が実践されていなければならない。とりわけ、人 間と世界全体を絶えず総合的に探求する哲学や宗教を、科
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