2020 南山学園概要

- ページ: 23
- 学園と私
この“Hominis Dignitati"すなわち、「 人間の尊厳」という 言葉は、私の人生体験から生まれでたものであります。私 は三つの戦争を体験し、ドイツの革命や、インフレーション、 全体主義の暴力的な事件も経験し、 そこに繰返されたさま ざまの災い-今日までもつづいている不幸な情況をも体 験して来ました。また、第二次世界大戦を東京で体験し、 そ こでもまた、随分多くの不幸な出来事を見ました。道徳的な 頽廃、精神的な真空状態をみて、また、東京の廃墟をみつめ ながら、果して人間の価値はどこにあるのかを考えると、心 は傷むばかりでした。私はそれらのことを正視することは できませんでした。人間はなぜこのような混乱や災いのた めに生れてきたのだろうかと疑わざるを得ませんでした。 そして、一人一人が他の人々を深く尊敬し、国家間において 相互の国民の尊厳を重んじ、互いに理解することは、人間 にはなぜできないのだろうかという疑問が、私に「人間の 尊厳」の重大性を悟らせたのであります。 「人間の尊厳」における人間の概念はキリスト教の信仰と キリスト教の世界観から生れでた概念であります。人間は 神の象(かたどり)として造られたものであります。人間は すべて等しく天に在す父なる神の子であり、この人間は永 遠に神と一致して存在するために召し出されている人間で あります。このような人間の概念や人間の尊厳をもってい る人間であれば、様々の国家間の相違は縮められるもので あります。 (1972年)
一般に開学記念日の主旨は、 その大学なり学園の創立を 記念し、創立の理想また意義を反省し、将来に向ってその理 想の実現について考えることにあると思います。 さて南山学園の創立は1932年。創立者ヨゼフ・ライネル ス神父が亡くなられたのは1945年(8月28日)、したがっ て南山学園創立者が亡くなられてから今年が25年目にあ たります。南山大学の創立者アロイジオ・パッヘ神父はライ ネルス神父の右腕として協力され、学園創立の理念をその まま受け継いで1949年、南山大学を創立いたしました。 南山学園の創立から南山大学創立を通じて 一貫している 教育の理念は、キリスト教精神にもとづく人間の尊厳にあ りました。勿論この理念を基礎とする南山大学創立にあ たって「研究と教育の場」という大学一般の使命が新たに 打出されたのはいうまでもありません。南山大学はこうし た教育理念を基礎に、南山学園の一環として創立されたの であり、ここに南山大学の特色があります。 今日、日本だけではなく世界の各国において大学の改革 が論ぜられ実施されつつあります。学問と技術、社会事情 などに大きな進歩と変化がみられるこの時代において、大 学の教育と研究、組織と管理等の面にも改革が必要なの は当然であります。しかし、南山大学が、南山学園の一環と して創立され、存在を続ける以上、すべての変革は当然南 山大学の特殊な存在と使命を、よりよく実現するためとい う方向において行なわれるべきでしょう。 南山学園の教育理念であるキリスト教精神に基づく人間 の尊厳と研究・教育の場としての大学の使命との間に、何 か合致しないものがあるのでは?と疑念をもつものがある かも知れません。しかし、学問の本質は、学問それ自身の内 部から展開され発展するものであります。こういう学問の 本質に対しては、研究を根本的使命とする大学においては、 何ものも矛盾や対立できないことは云うまでもありません。 ただ忘れてならないことは、一般社会の人々はもちろん、何 びとと云えどもただ学問だけにつきる存在ではない、とい
建学の精神を憶う
第2代南山大学長
沼澤 喜市
23
- ▲TOP