
南山学園を支えてくださるみなさま
2025年6月24日
学校法人 南山学園理事長 市瀬英昭
はじめに
みなさまには、常日頃から南山学園をご支援いただき、心より感謝申し上げます。2025年4月1日の「私立学校法の一部を改正する法律」の施行に伴い、本学園においても理事会、評議員会を中心にガバナンス改革を進め、新しい組織体制・運営が始まりました。本学園はその設置母体であるカトリック神言修道会(しんげん しゅうどうかい)との連携、協力の中で教育・研究活動を今まで以上に発展させて参りますが、このような節目のタイミングで、改めて理事長として、みなさまに今後の本学園が進む方向性や考え方をお示ししたいと思います。
建学の精神と教育モットーについて
1909年に来日した本学園創立者ライネルス神父は、名古屋の地に1932年に南山中学校を1936年には南山小学校を設立し、その事業は多くの先達の苦労と善意のみなさまの献身的な働きによって引き継がれてきました。本学園は、愛知県瀬戸市の名古屋聖霊学園および神奈川県藤沢市の聖園学院(みその がくいん)との二度の法人合併を経て、現在、愛知県と神奈川県において、幼稚園から大学まで8つの設置単位を擁するカトリック総合学園となっています。
建学の精神、および教育モットー「人間の尊厳のために」はキリスト教世界観に深く根差したものであり「一人ひとりの人間がまさに一個人としてかけがえのない存在であり、侵すべからざる尊厳をもつ」という人間観を土台としています。建学の理念や寄附行為に表記される「人材」は「人間の尊厳のために」の文脈で理解される用語であり、「人的資源」(manpower)ではなく、「人間であること」(manhood)を意味しています。人間は何かの目的のための材料でも資源でもありません。「社会の役に立つ」という表現も特効薬のような意味ではなく、人間の本当のありかたについて考えさせること、と理解しています。社会の政治も経済も学問もすべての人間の本来性の開花へ向けられた活動であるとわたしたちは考えています。
教育理念の実践へ向けて
ここで本学園の4つの教育理念について簡潔にご紹介し、ご理解を頂きたいと思います。
「宗教性の涵養」
これはカトリック学園としての根幹をなす部分です。すべての人間の人間性の土台ともいうべき宗教性とその具体的な表現である個々の宗教とを区別し、関連づけることが重要となります。個々の宗教は、わたしたちが無関心ではあり得ても決して無関係ではない事柄、たとえば地球環境や世界の平和について、責任をもって発言することが求められています。「本質的なことでは一致を、疑わしきことには自由を、すべてにおいて愛を」というキリスト教の伝統を大切にしながら、キリスト教も諸宗教とともにあるべき世界の実現へ向けて発言し、行動します。幼年期には実際の体験が重要ですが、世代が上がっていくにつれてより知的で理論的な表現が必要となります。大学においては高度で客観的な表現が必要となり、国際的にも異なる立場の他者とも知的で誠実な対話が求められます。


「知的理解と厳しい知的訓練」
すべての学びは自然を含む他者との対話とかかわりの中でなされる営みであり、よりよい社会の形成に向けてなされる共同の継続的な活動です。人間と人間に関係する事柄を「教えること」は、どのような分野においても、「隣人愛」の実践となります。「研究すること」や「学ぶこと」で得られる実りを他者と分かち合い、社会へ還元することも同様です。対話が重要視される現代、本学園の設置単位はカトリック校としてのアイデンティティを堅持します。数値化される「認知能力」の重要性を認識しつつ、コミュニケーション力、他者への配慮、忍耐力、責任感、ユーモアなど数値化にはなじまない「非認知能力」も重要視します。現代において進化し続けるAIやロボットをめぐっては、それらを賢明に利用しながら、重要な事柄についてはわたしたち人間が責任を持って決断する、という根本を大事にしていきます。


「地域社会への貢献」
本学園は当初から地域社会に根ざしています。1932年に設置された南山中学校をルーツに持つ南山学園、1995年に法人合併した瀬戸市の名古屋聖霊学園、そして2016年に法人合併を果たした神奈川県藤沢市の聖園学院も、それぞれ地域社会に支えられて発展を遂げ、これまでにのべ24万人を超える卒業生を輩出し「人間の尊厳のために」を実践する社会形成に貢献してきました。本学園の設置単位は、建学の理念と教育モットーを共有しながら、それぞれに直面する課題と誠実に取り組み、地域社会から愛され選ばれる学校となるようにと願っています。

「国際性の涵養」
世界に広がるカトリック教会を背景にもつ本学園にとって国際性の涵養は当初からの関心事です。世界に存在する様々な国と文化に尊敬の念をもって接し、その出会いによる学びを目指します。自国と他国を問わず、その文化、言語と習慣の「かけがえなさ」を大切にします。いかなる暴力も否定し、異質と思われるものを排斥せず、2025年5月8日に誕生した新教皇レオ14世が、前教皇フランシスコの後を継いで提唱される、世界に「壁ではなく、橋を架ける」ための働きを本学園も教育事業と研究活動を通して担っていきます。

将来へ向かって
変化と多様性の現代に生きる中で必要なことはそれぞれが自己のアイデンティティを深めていくことであると思われます。本学園の設置単位は教育モットーである「人間の尊厳のために」を共通の軸とします。この理念のもとに行われる教育研究が社会と世界への貢献となるとわたしたちは確信しています。本学園は創立者ライネルス神父をはじめ多くの先人たちの苦労と働きに感謝しながら、また地域社会のみなさまのご支援のもとに、将来へ向かって進んで参ります。今後ともご理解とご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

Profileプロフィール
- 1951年11月18日
- 長崎県大村市生まれ
- 1976年3月
- 南山大学文学部哲学科卒業
- 1978年3月
- 南山大学文学部神学科卒業
- 1979年10月13日
- 司祭叙階(神言修道会)
- 1986年4月
- 聖アンセルモ典礼学研究所(イタリア)修了
- 1987年4月
- 南山短期大学、のち南山大学短期大学部教授 専攻分野「典礼学」
- 2006年7月
- 神言修道会日本管区長(~2013年12月31日)
- 2017年4月1日
- 学校法人南山学園理事長(現在に至る)
- 2020年4月1日
- 南山大学名誉教授
1951年、6人兄弟の次男として、長崎県大村市に生まれる。長崎南山中学校・高等学校を経て、南山大学文学部へ入学し、哲学科と神学科を卒業。大神学生(修練期を経て初誓願を宣立した神学生)のときには、男声合唱団である南山大学メイルクワイヤーや女声コーラス部の定期演奏会で「ミサ曲」のオルガン伴奏を担当した。1979年に司祭叙階後、神言神学院で指導司祭として、小神学生(中学生・高校生)たちと寝食を共にする。

1992年夏
イタリア留学中、オーストリアのザルツブルグ近郊での夏季休暇

1979年10月14日
神学院での初ミサの後(写真右から2人目)
その後、イタリアの聖アンセルモ典礼学研究所へ留学。帰国後、1987年4月、神言神学院の大神学生の指導司祭を兼ねながら、南山短期大学人間関係科の専任教員として入職。約30年間教鞭を執る。専攻分野は典礼学。キリスト教学の授業では、聖書を中心に、副教材に時事的な記事や哲学的エッセイ、音楽等を使い、学生たちに「人間の尊厳」の大切さを伝えた。2017年4月に南山学園理事長に就任、現在に至る。
趣味はバレーボール、音楽鑑賞、古本屋巡り等。